中国の社会信用システムについて

このトピックが、中国国外のメディアに登場し始めたのは一昨年2016年から。WSJが11月に取材記事を載せた。

「社会信用システムを推進しているのは、国務院(内閣に相当)と国家計画機関だ。2014年に国務院が示した概要は、経済、社会、政治活動における「誠実さを構築する」のが同システムの狙いだと説明。そして、公正かつ汚職のない政府の必要性、汚染工場や収賄者を処罰する必要を強調している。」

そして、このWSJの取材記事の前の2016年8月に、ドイツの研究者MIRJAM MEISSNERの文章が出されている。上のWSJの取材記事の方向性は、基本的にこの文章の流れに従ったものになっている。

中華人民共和国にもともとあった档案システムに加え、1990年代始めに経済改革のプロセスで始まった金融機関の融資の安全確保のため、対照となる借入人の企業と個人の関連行動を記録するだけでなく、それを金融機関の間で共有する仕事が始まり、「征信システム」の構築が始まった。このシステムは「誠実さを構築する」体系と名付けられ、それ以降社会信用体系を構築というのは人民銀行系統の仕事だった。2000年代ぐらいから、不良債権の抑制のため、銀行の貸出人には貸出先のパフォーマンスに「終身責任制」を貸すしくみが導入され、それを実現するにも、こうしたしくみが必要だったのだ。これが2013年に入って、この借入人行動記録を社会でシェアする仕組みの「征信システム」を民間にも開放することになった。これは、具体的にはアリババやテンセントにそうした個人情報の記録を用いたビジネスを開放することを意図していて、それは同時にこうした個人情報の管理がデジタル化するということになった。

中国「征信業発展報告2003-2013」この報告書の骨子がそのまま、2013年の民間開放後のルールである「征信業管理条例」の基本構造になっている。

2013年の条例では、金融に係る個人情報は、官民を問わず国家全体で共有することが明記されて、2014年に社会信用体系構築計画概要が発表される。このWSJの記事や、そのもとになった下のMessnerさんの記事で2020年までにと書かれているのは、この計画の完了を指しているのだろう。ここでは、このシステムが社会全体をカバーすると書いてあるので、「全国民が国家の監視下に置かれる」と表現するひとがいるのだと思われる。ただ、全国民を登録するとは書いていない。その間合いをどう解釈するのかな。

こうした動きについて。
1.民間企業のデータ管理に関する行動については、「征信業管理条例」である程度の規制をかけられている。たとえば、個人のDNAや病歴、信教などに関する情報は、どのような条件のもとでも収集もシェアもしてはいけない。

2.こうした管理の原則が定まったので、シェアサイクルその他のO2O(Online to Offline)ビジネスは拡大が始まったし、アリババも2017年に大規模なニューリテール戦略を始めたと言える。イノベーションが生まれるきっかけになっている。

3.この法規で規制されていない点で、わたしが気になるのは、2つ。ひとつは、情報収集と共有が禁じられている項目は、どちらかというとオールドな情報であること。おそらくEUの個人情報保護規制を念頭においてつくったからと思われる。が、技術の進歩がこうした状況を超えてしまって、センスタイムなどの企業の認識システムは、顔や容姿を元にしている。この顔や容姿といった情報の収集と共有については、おそらく何も規制が無いのだろうと思う。

さらに、2つ目は、公安の規制、国家の安全保障という名目が加わると、こうした情報収集とシェアへの禁止という規制がやすやすと超越されてしまうこと。そして、中国国内にいる限り、外人や外国企業もこうした監視の対象になり得てしまう。何も制約がかかっていないのが現状。

4.AIの開発には、こうしたデータがあるほうが有利。個人情報規制があったとしても、実際のところ闇ウェブのようなかたちで情報をは利用されている。こういう危ないものに依存するぐらいだったら、国家が管理の意思を明確に示している国で「合法的」に開発したほうが、データの質がよいしリスクが少ないという現実もある。

5.この個人情報の収集と共有、管理について、企業、社会、国家が何をどこまでできるのか、は、各国各様というのが現実。しかし、こうした情報の流通は、プラットフォーム企業などと一緒に国境を超えている。TPPは、サーバーの設置の自由を謳って、企業の情報収集活動が国家の介入を受けない余地を作ろうとしたけれど、アメリカが脱退してしまい全世界に共通のルールにすることはすぐできない。まあ、そもそもサーバー設置の自由があったとしても、問題の本質を有効な規制となっているとも言えない。対抗するしくみが出てきてないように見える。

Follow me!